2014.05.15 THU
このプロジェクトの目標地点であり、もっとも身近な天体である月をより深く知っていただくため、様々な視点でご紹介します。

月の水を求めて

みなさんは、月に水があることを知っていますか?
「LUNAR DREAM CAPSULE PROJECT」は、月の水ととても深い関係があるプロジェクトです。
そんな月の水が発見されるまでの経緯と、水があることで変わるであろう、人類の未来を探ってみましょう。
translation missing: ja.articles/001.part1.subtitle
「月の極地域に約60億トンの水が氷の状態で存在する!」そんな衝撃的なニュースが世界中をかけめぐったのは1998年9月のこと。NASAが月探査機「ルナ・プロスペクター」のセンサーにより水素が観測されたという調査結果を科学雑誌サイエンスに発表したことがきっかけでした。
60億トンと言えば福島県猪苗代湖の水量より少し多いほど。本当にそんなに大量の水があるのでしょうか?実は「ルナ・プロスペクター」は、直接氷を撮影したわけでなく、水素があるという観測結果を得ただけでした。
その後、インドの月探査機「チャンドラヤーン1号」も月面に水分子があるというデータを取得。しかし、その量はごく少量であるという観測結果でした。
本当に月の水はあるのか、あるとしたらどのくらいの量で、どんな形で存在しているのか。土壌に交じっていたり、地下に貯留されているのか。
それを確認するには、月の地質を調べなければならない。そこでNASAは月に物体を衝突させ、内部から舞い上がる成分を調べるという大胆な手段を取ることにしたのです。
チャンドラヤーン1号の観測画像。左の画像は水分子が発見された場所。右の画像では、水色の疑似カラーで水分子を表している
photo by ISRO/NASA/JPL-Caltech/USGS/Brown Univ
translation missing: ja.articles/001.part2.subtitle
エルクロスが撮影した、セントールロケット衝突直後の画像。左下が衝突時の噴出物の拡大画像
photo by nasa

月に探査機自体が突入し、月の地質に水があるかどうかを調べるという目的で、NASAの探査機「エルクロス」が打ち上げられたのは2009年6月でした。ターゲットは月の南極にある「カベウスクレーター」です。
しかし、月に物体を衝突させ、内部から氷などの物質が舞い上がったとして、どうやって観測すればいいのか?頭を悩ませながら開発チームが出したアイデアは、衝突を2段階に分けることでした。
まず第1段階で、探査機エルクロスから衝突体「セントロール・ロケット」を分離して、月に衝突させる。そして月地質から出てくる物質を、探査機「エルクロス」がその真上から観測。第2段階では「エルクロス」自体が月に衝突し、その様子を宇宙にあるハッブル宇宙望遠鏡や地上の大型望遠鏡で観測するという計画でした。
2009年10月9日、まず「セントロール・ロケット」がマッハ約7.5もの高速でカベウスクレーターに激突しました。
何十億年もクレーターの底に眠っていた物質が、月面の空に舞い上がります。「エルクロス」はその瞬間を見逃さず3種類のカメラで撮影すると同時に、数種類の機器で観測し、データを地球に送信することに成功しました。
そして、その6分後に探査機「エルクロス」が月面に衝突。「エルクロス」の衝突は残念ながら観測されなかったものの、「エルクロス」が地上に送信したデータから貴重な情報が得られます。
NASAは月内部から噴出した物質を詳しく分析した結果、近赤外線のデータが水蒸気と氷の混合物のデータと一致したこと、また、紫外線のデータが、水とちりの化合物が出す特徴と一致したことなど、水が存在する数々の証拠が見つかったのです。
その量は研究者たちの予想をはるかに上回るものでした。カベウスクレーターの表土に含まれる物質の約5.6%が氷からできているという驚くべき事実が明らかになったのです。

translation missing: ja.articles/001.part3.subtitle
月の発見に至るまで、日本の月探査機「かぐや」のデータが重要な役割を担ったことを知っていますか?
1960~70年代に行われたアポロ計画により、月のことは既によく分かっているはずだと多くの人は考えるでしょう。しかし、意外なことにアポロ計画で月の詳しい写真が撮られたのは赤道のプラスマイナス20度、月の20%弱というごく一部にすぎなかったのです。
アポロ計画後、本格的な月探査を行ったのが、日本の月探査機「かぐや」です。2007年に打ち上げられた「かぐや」は約2年間、14もの観測機器で、世界で初めて月を科学的に調べ尽くしました。さらに、月の地平線から地球が上る「地球の出」を鮮明なハイビジョン映像でとらえ、
新しい視点と月体験をもたらしたのです。
特に月の水の探査という点で、「かぐや」が貢献したのは、氷がある有力候補と考えられる南極のシャクルトン・クレーター内を詳細に観測したこと。そして月の地形を10mの細かさで判別できる精度の高い、月全体の地形図を作ったことでした。
その地形図は、2009年に「エルクロス」の月面上の衝突場所を絞り込むために欠かせない存在であり、大変役立ったとNASAの科学者が話しています。かぐやのデータがなければ、「月の水発見」という快挙は未だに成し遂げられなかったかもしれません。
観測を行うかぐやのイメージ図(C)JAXA
translation missing: ja.articles/001.part4.subtitle
人間が生きていく上で、水は欠かせないものです。例えば、地球の上空約400kmを飛行している国際宇宙ステーションで生活する宇宙飛行士たちは、飲み水や生活用水として1日に約3.5リットルの水が必要です。初期には地上から水を運んでいましたが、国際宇宙ステーションにコップ1杯の水を運ぶ費用が30万円以上かかるため、NASAは尿から飲料水を作る再生装置を使うことで必要な水をまかなっています。
月面に水を運ぶとなれば、さらにコストがかかります。また、水が必要なのは飲料水のためだけではありません。月は真空で空気がないため、水があれば呼吸に必要な酸素を作ることもできるし、月面基地をコンクリートで作る建設資材として使うこともできるのです。
月面で人間が生活し、さらに月面基地や天文台を作るなど活動範囲を広げていくには、水の存在がどうしても必要なのです。
では、仮に月で人が生活できるようになったとして、月の未来はどう変わるでしょうか?
月は地球に対していつも同じ面を向けていますが、地球から見えない裏側は、雑音となる地球の電磁波が届かないため、天文観測の「理想郷」と考えられています。また月にあると期待されているヘリウム3やアルミニウムなどの資源が見つかる可能性もあり、今後、宇宙研究は飛躍的に進むでしょう。
さらに月から「地球の出」を見たいという観光客も訪れるはずです。小惑星や火星に向かう前に宇宙飛行士達は月で訓練を行っているかもしれません。月には新しい職業が次々に生まれ、果ては月に永住する人も…。
このように、月の水が実用化されることで広がる人類の可能性は無限大です。さらなる月の水の探査に期待しましょう。
アポロがとらえた「地球の出」。近い将来、この光景を見に多くの人が月を訪れる日が来るかもしれません photo by NASA

この記事を共有する

月と宇宙に関する記事