三味線の澄んだ音色が店内に響き渡る。演奏するのは歌舞伎長唄を受け継ぐ杵屋栄之丞。「ひとバチひとバチ、丁寧に、そしてきれいに聴かせたい」と話す。歌舞伎長唄は、芝居の情景を美しい旋律に乗せて表現するものから、川のせせらぎや幽霊が現れる際のドロドロという効果音など、その演奏は実に多彩だ。役者の動きやセリフ、シーンにぴったり合わせて奏する職人技が求められる。
長唄三味線の楽しさをもっと広めたい、そんな気持ちで2年前から、両国の小さな居酒屋で三味線の体験会やライブを開催している。「お客さんの目と鼻の先で弾く。音を出すとオォ~とうなり声が湧くんです。この距離感にやりがいを感じます」。奏者の息を感じるほどの近さ。以前は、歌舞伎の歴史とは?三味線とは?と講釈していたが、いまは古典三味線の面白さや自分が感じたことを、三味線を通じてダイレクトに伝えている。
歌舞伎や三味線を知らない、
若い人にぜひ来てほしいです
昨年の夏、持病の治療のため手術。一時40キロ台まで落ちた体重は回復し、体調も万全だ。
三味線の楽しさを広める夢は再び始動した。彼のチャレンジはまだまだ続く。
杵屋 栄之丞(三味線奏者) 1989年生まれ、東京都出身。6歳より杵屋栄八郎に師事。東京藝術大学在学中に三代目杵屋栄之丞の名を許される。歌舞伎公演などで活躍する一方、居酒屋でのライブや体験会をはじめ、レストランでの生演奏会「三味線ラウンジ」、三味線と酒を楽しむ「三味線舟遊び」などにチャレンジしている。
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