日本には「痛い」と言えないトップアスリートが大勢います。彼らにしたら痛いのに我慢して伝えないのではなく、本当に痛くないと感じるのです。厳しく教育されてきたから、弱音を吐いたら負けという感覚が染みついているのかもしれません。
幼少期から、休養とメンタルのマネジメントを正しく行ってこなかった事に原因があると感じています。将来、慢性的な体調不良や何度も繰り返すケガに悩まされずにアスリートとして活躍するためには、日頃から自分の身体のコンディションと向き合い、小さな痛みや疲れを認識することがとても大切です。
そうしなければ、運動で筋肉に負荷を与えたとき、筋肉が強く、太くなっていきません。1日の周期において、トレーニングをしたら栄養補給をしてしっかり休み、家に帰って食事をしてしっかり寝る生活パターンを身につけましょう。1週間の周期であれば1日、2日は必ずオフを取るというサイクルが重要です。
なぜなら成長ホルモンは、運動直後の休息や睡眠時にたくさん分泌されるからです。だからこそ中高生は、夜10時以降になったら、なるべく早く寝る習慣をつけておきましょう。そうしないと成長ホルモンが分泌されにくい身体になってしまいます。
こうした習慣づけは、社会人やプロのアスリートになると難しくなる場合が多いのです。また、1回オフを置くと、脳が記憶を整理してくれるという休養のメリットもあります。休養はアスリートのパフォーマンスを上げる、大切な時間なのです。
私がコンディショニング指導をしている選手たちに聞くと、一流のアスリートは小さいうちに想像力、イマジネーションを高める経験を必ずしています。これは取り組む時期が早ければ早いほど有効です。
日本人初のNBA(全米プロバスケットボール協会)プレイヤーとして試合出場を果たし、成績を残した田臥勇太さんは、その躍進の裏に高校時代の世界ジュニア選抜やハワイ生活中の国際的な経験があります。ですが、さらに彼のキャリアを支えたと考えられるコンディショニングがあるのです。
それは、幼少期からずっとNBAで活躍するバスケットボールプレイヤーの動きを映像で見ていたことです。幼少期は脳細胞の数が非常に多い時期なので、なるべく良質で豊富な音と映像を耳や目から入れることが大切です。そうすることによって音と映像は脳に記憶され、そのイマジネーションはのちの自分の身体の動きに反映されます。
休む時間や休養の日を有効活用して、そういった体験を10代前半のうちにどんどん行いましょう。
リラックスしているときに、繰り返し良いプレーをシュミレーションしてみたり、良い選手のプレーの動画を観ると、脳にイメージが記憶され、プレーにも反映されやすくなります。これは大人も一緒です。つまり、休養とメンタルコンディショニングを一緒に取り込むことが重要です。トレーニングを考えるよりも前に、日常の生活習慣を大事にすることです。
酒井リズ 智子さん
米国医師免許に加え、米国NATA認定アスレチックトレーナー、米国ACSM健康運動指導士の資格を保有し、米国の病院勤務の傍、プロスポーツチームコンディショニングでの経験を積む。米国現場での経験を生かし、現在はバスケットボールの田臥勇太選手、サッカー日本代表の川島永嗣選手他、陸上、野球、ゴルフ、卓球、柔道、フットサル、スノーボードなど、日米欧の様々な分野のトップアスリート選手のトータル・コンディショニング(トレーニング・技術・リハビリ・栄養指導・生活習慣矯正)をパーソナルで指導。