ジュニアスポーツ選手のための スポーツライフマネジメント

Vol.1 スポーツライフマネジメントとは

「運動」「栄養」「休養」のバランスが大切

「スポーツライフマネジメント」って知っていますか? スポーツライフマネジメントとは、スポーツライフの3要素である「運動」「栄養」「休養」を総合的に考えて管理し、その効果を最適化することです。
勝敗にこだわり過ぎて、無理なトレーニングを重ね、ケアを怠ると疲労が残り、故障しやすくなります。その結果、試合に出られなくなってしまうリスクがあります。
スポーツライフをマネジメントし、コンディションを整えれば、故障のない競技生活や競技力向上、文武両道の達成を導くことができるでしょう(図1)。
ジュニアスポーツ選手の、生涯にわたる豊かな人生につながるスポーツライフの確立のためには、スポーツライフマネジメントを実践することが不可欠です。

ジュニア期は、未来のアスリートになるための「土台」をつくる大切な時期

ジュニア期の中学から高校にかけては、人生で最も身長が伸び、エネルギーを必要とする大切な時期です。そのため私たちのカラダをつくる毎日の食事は、とても重要になります。何を、どのくらい食べるか、といった食事に対する意識を高めましょう。
成長するポイントは年齢に応じて変わるため、その年齢に合わせたトレーニングで能力を高めることが求められます。
たとえば「動作の習得(脳・神経系)」は小学生のときに伸びますし、「粘り強さ(呼吸・循環器系)」と「身長(筋・骨格系)」は中高生のときに、「力強さ(筋)は」高校以上に伸びていきます。全般的にこの年代は、カラダづくりを中心とした基礎体力づくりがポイントになりますが、基礎体力づくりは筋トレだけではく、脳・神経系、呼吸・循環器系・骨格系等さまざまな部分を考慮することも忘れてはいけません。中高生のときには、筋トレ以上に動作の習得や柔軟性を身につけることが大切です。
カラダづくりは、トレーニングだけをすればいいというものではありません。
もちろんトレーニングはとても大切ですが、それにプラスして、トレーニング前後の栄養補給や、トレーニング後のリカバリーなど、トータルでの考え方が必要になります。「トレーニング(運動)」、「食事(栄養)」、「睡眠(休養)」の3つのスポーツライフ要素が、それぞれ適切におこなわれていることと、生活リズムからみて合理的に組み合わされることに配慮してください。
スポーツの現場だけでなく、日常生活のあらゆる場面から工夫し、良好なコンディションが維持できるように取り組みましょう。

ジュニア期の生活リズム

ジュニアスポーツ選手の現状をみると、午後トレーニングを終えてから夕食までの時間が2時間以上や1~2時間になる選手が数多くいます(図2)。そのために、夕食を食べるのが大変遅くなってしまいます。トレーニング効果を高めるためには、トレーニング後できる限りはやく食事をとり、休息に入る生活リズムを整えます。帰宅までに時間がかかる場合には、栄養調整食品などを補食として上手に取り入れるとよいでしょう。

トレーニングの疲労を回復し、トレーニング効果を大きくするため、また、次のトレーニングの内容を充実させるためには、睡眠も影響します。睡眠の時間を十分にとることや、深い質のよい睡眠をとること、それには早寝をすることにつきますが、選手の20〜25%が夜11時30分を過ぎてから就寝しています。その結果、朝は登校時間ギリギリに起床し、朝食を抜いてしまう選手が少なくありません。朝起きたときには、カラダは脱水状態になっていて、血糖値も低くなっています。この状態で朝練習をするのはとても危険です。たとえ朝練習がなかったとしても、水分補給と、量・質ともにバランスのよい朝食をしっかり摂りましょう。また、朝食を食べないことで、脳へのエネルギーが不足し、授業中に集中できない選手も数多くいます。中学生よりも高校生のほうが、そして、特に女子より男子で多くみられます。朝食で集中力を高めるためには、おにぎりやトーストだけなどの糖質単体ではなく、栄養のバランスがとれた食事が欠かせません。
「質のよい睡眠」と「バランスのよい食事」は、学業とスポーツ活動を両立させるための重要な要素です。

ジュニア期のスポーツライフ

ジュニアスポーツ選手が、より望ましいスポーツライフをおくるためには、どのようなことに気をつけ、注意をしなければならないかを、しっかり知ることです。
それらは、トレーニング、食事、睡眠(休養)のスポーツライフのあり方だけに限られるものではなく、それは、ジュニアスポーツ選手が知的能力を高めるための勉学にも、集中力を高めて努力できるように、時間と体力のゆとりを持たなければなりません。トレーニングを終えて帰宅し、夕食を食べた後に自主学習をすること、学校での授業に集中することなど、勉学期の過ごし方の基本をきちんと実行できるように、スポーツライフを組み立てましょう(図3)。

適正なスポーツライフマネジメントを実践して、選手生活、そして人生を豊かにした先輩の選手たちはたくさんいます。スポーツに努力することが大きな成果を得ることにつながるよう、選手はもちろんのこと、指導者そして保護者が一体となってスポーツライフの改善に努力することが成功につながります。

トレーニング日誌をつけよう

トップアスリートだけでなく、意識の高いスポーツ選手は、みんな、自分のトレーニング日誌をつけています。トレーニングの内容と量、食事の時間と内容、睡眠と起床時間、体重、排便、水分の摂取量、気分、そしてその日の体調などを記録します。記録をとり続けることで、自分で意識してコンディショニングができるようになり、みずから生活の質を高めるようになってきます。
生活習慣のなかには、将来の活躍につながるヒントがたくさん隠れています。何をするか、何を食べるか、どんな生活をするかへの意識改革と、そのたゆみない継続こそが、明日への大きな一歩であると言えるのです。まずは、できることからはじめてみましょう。

出典:日本体育協会発行 Sports Japan 2016年5-6月号掲載記事

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監修 樋口 満 先生

  • 早稲田大学 スポーツ科学学術院 教授 、アクティヴ・エイジング研究所 所長

東京大学大学院教育学研究科 教育学博士(東京大学)。 厚生省 国立栄養研究所 健康増進研究部 部長を経て現職。 専門は、健康増進に関する運動生理・生化学、スポーツ栄養学。 スポーツ選手のコンディショニングとパフォーマンスアップに関して栄養学的視点から研究するとともに日本オリンピック委員会 医科学・専門委員、日本体育協会 スポーツ医・科学専門委員などの多岐にわたる活動をする。

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