ジュニアスポーツ選手のための スポーツライフマネジメント

Vol.2 スポーツライフを支える水分補給

ジュニアスポーツ選手が、学業とスポーツを両立し、豊かな人生につなげるために大切なこと、それが「スポーツライフマネジメント」です。まだ発達の過程にあるジュニア選手には、スポーツライフの3要素、「運動」「栄養」「休養」を総合的に見ながら指導していかなくてはなりません。それは競技力の向上だけでなく、故障のリスク軽減や生活の充実にもつながります。

カラダの水の大切さ

3要素全てに関わってくるのが「水分補給」です。人のカラダの約60%は水分で、なかでもアスリートや定期的に運動をしている人は、水分を多く含む筋肉が多いため、カラダ全体の水分が占める割合も一般の方に比べて多くなります。 カラダの水(体液)は、酸素や栄養素を細胞に届けたり、汗を出して体内の熱を逃し、体温を一定に保つなど、生命に関わる大切な役割を担っています(図1)。その体液は、普通に生活していても、尿の排出や皮膚からの蒸発などによって、1日に約2.5リットルの水分が失われています。そのため、食事や飲水などで同じ量の水分を摂ることで体内の水分バランスを保ち、カラダを維持しています。

スポーツ時は、通常より多く発汗をするため、先の数値以上の水分がカラダから失われることになるので、注意しましょう(図2)。

夏季には、記録会をはじめとする各種大会も多くあり、目標に向けて、水分補給を含む、コンディショニングがとても大切になります。

水分不足によるカラダへの影響

体内から水分が失われてしまうことを「脱水」と呼びます。脱水になると、カラダに様々な問題を引き起こします。その一つが体温調節機能の低下です。体温調節機能が低下すると、熱産生と熱放散のバランスがとれなくなり、体温が上昇します。これはクルマのオーバーヒートと同じで、スポーツにおいては、パフォーマンスの低下につながります。

スポーツ時のパフォーマンス低下は、体液が体重の2%以上失われると起こり始めます(図3)。運動中の発汗量は、環境や運動強度によって異なりますが、1時間で2リットルに及ぶ場合もあり、これは体重50キロの人であれば4%に該当し、危険な脱水状態にあたります。一生懸命にトレーニングを積んできても、本番でパフォーマンスを低下させてしまっては、選手たちにも悔いが残ってしまいます。そうなる前に、水分を補給させなければなりません。

水分補給は失われた水分量、つまり発汗量に相当する分を補えば良いのですが、汗の量は身長や体重、環境、運動強度などにより各人異なります。そこで目安となるのが、「のどの渇き」に応じた自由な飲水です。この自由飲水によって、適量の水分が補給されることが多くの研究や調査でも明らかになっています。

のどの渇きは、カラダの水分不足を知らせるサインです。選手たちの様子を見ながら適時、水分補給を促すなどし、パフォーマンスの低下を防ぎましょう。

水分補給に適した飲料

水分補給は多ければ多いほど良いわけではなく、必要以上に水分を摂りすぎないことにも注意が必要です。練習の前後で体重を計ることで発汗量を知ることも有効です。その際、補給量の目安は、体重が2%以上減らない、かつ体重が増えない(脱水率が0〜2%の)量となります。

コンディションと、スポーツ時のパフォーマンスをキープするためには、カラダから失われた水分をすばやく補うことが必要です。汗には水分だけでなく、ナトリウムなどのイオン(電解質)が含まれています(図1)。大量に汗をかいて体液が失われたとき、水だけを飲むと体液のイオン濃度が薄まり、それ以上濃度を下げないためにのどの渇きを感じなくなります。同時に余分な水分を尿として排泄するため、脱水状態から回復することができなくなってしまいます。水分補給の際は、適切な濃度のイオン飲料を摂取させましょう。

また、スポーツ時における水分補給の重要なポイントは、体内への吸収スピードです。吸収スピードの点からは、イオンと一緒に適切な濃度の糖質(ぶどう糖+果糖)を含んだ飲料がおすすめです。糖質はエネルギー源にもなります。日本体育協会では、0.1〜0.2%の塩分(ナトリウムに換算すると100ml中に40〜80mg)(図4)と、1時間以上の運動をする場合は、4〜8%程度の糖質を含んだものを推奨しています。

スポーツドリンクなどには塩分や糖質といった成分がバランスよく含まれているので利用すると良いでしょう。

いつでも飲める環境づくりを

体育館やコートのコーナーにドリンクコーナーを設置し、いつでも自由に飲める環境を作っておけばその助けになります。また、飲水休憩の時間を設けたり、水分補給をするよう声掛けなどを行ったり、運動中だけでなく、その前後でもしっかり飲水するような指導も忘れてはいけません。選手たちが大会などでパフォーマンスを発揮できるよう、日ごろから自主的な水分補給を意識させましょう。

夏の暑熱環境下でのスポーツは、カラダに大きな負担がかかります。水分補給はもちろんのこと、栄養や休養にも配慮してスポーツライフマネジメントを実践していきましょう。

出典:日本体育協会発行 Sports Japan 2016年7-8月号掲載記事

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監修 松本 孝朗 先生

  • 中京大学 スポーツ科学部 教授、体育会硬式テニス部部長、トライアスロン顧問
  • 日本体育協会公認スポーツドクター、内科医

専門は、運動生理学、環境生理学、温熱生理学、スポーツ栄養学、スポーツ医学、内科学、内分泌学。運動・スポーツ・健康を中心とし、運動時の人の体温調節・エネルギー代謝への雨・風の影響、運動後の疲労回復法、ボクシングの減量、熱中症の予防など、幅広い研究を行っている。

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